じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉、進路
7時限目はロングホームルーム。1時間使って、先生方から進路のお話をしていただきました。各先生がそれぞれのクラスの教室を回って、担当教科の勉強法、または全般の意識の持ちよう、または入試改革について話すというものです。
数学のX先生には、数学には「使った公式を応用する思考力」が必要であるというお話をしていただき、国語のJ先生には、国語を学ぶ上で読解力を伸ばすのに必要なことについてのお話をしていただき、英語のABC先生の話は普通に忘れました。
3人の先生の話が終わったところで、2分ほど遅れて、話の長い社会の先生が教室にやってきて話をはじめました。
「先生は、入試改革についての話を、例え話でしていきたいと思います。」
そういって先生が話しはじめたのは、料理の話でした。ちなみに、下記の文章はあくまで記憶の要約であり、実際には下記の文章の5倍くらいの(薄めた)話をしています。
「ここに、じゃがいもと、たまねぎと、にんじんと、牛肉があったとします。それが『実力や知識』です。以前までの入試ならば、『カレーをつくりなさい』という問題で、そのカレーを作る技能や作り方の知識などがあればよかったんですね。ですが、これからは『カレーではない新しい料理を作りなさい』となります。じゃがいもと、たまねぎと、にんじんと、それから牛肉で、今までに無い料理を作らないといけないんですね。つまり・・・」
僕の「話聞く脳」はそこで完全に機能を停止し、「じゃがいもと、たまねぎと、にんじんと、牛肉で作れる全く新しい料理を考える脳」が、生まれて初めて活動を開始しました。
僕は入試会場にいました。
試験用紙が置かれるはずの机には、じゃがいもと、たまねぎと、にんじんと、それから牛肉と、不自由のない調理器具が置いてあり、「カレーでもシチューでも肉じゃがでも無い、全く新しい料理を考え、調理せよ。」と油性マジックで書かれた紙が無造作に貼り付けられていました。
「えー、受験番号710番のあなた、作ったもの・・・これはなんですか。」
机の上にあるのは、玉ねぎの皮を上から被せたにんじんとじゃがいも、皮を剥がされた玉ねぎ、なんの調理も施されていない牛肉。僕は答えました。
「これは、人間です。」
「えー、詳しく説明してください。」
「よく見てください。このにんじん、じゃがいも。人間の頭に見えませんか?」
よく見たら、そう見える。玉ねぎの皮がちょうど髪のようになっているのです。
「・・・なるほど、ではどういうことですか?」
「このにんじんは、痩せた人間。じゃがいもは太った人間。そして玉ねぎは禿げた人間。みんなそれぞれに特徴、一見弱味と思われる特徴を持っていますが・・・」
ここで一つずつを口にしていく。引き続き僕の話。
「ほら、全部美味しいんです。みんな弱さや短所を持っているようでも、結局美味しいんです。これが僕の思う人間です。」
「素晴らしいですね。ちなみに牛肉は?」
「肉塊であるという、人間の本質です。」
「合格ッ!!」
チャイムが鳴りました。が、先生の話はまだ続いていました。いつものことです。大体、チャイムから1,2分後に授業は終わるのです。そして先生の授業が終わった後には、誰もがあくびをする。授業がわかりにくいわけでは無いけど、声に、オルゴールみたいな「眠たくなる周波数」があるんでしょうね。
さっきので通ったらいいのに。
どうも、こんにちは。いももすでした。